出荷数とミクさん達 - ミクさんの隣.
私は、以前から、ミクさん達に質問したかった事があった。それは、この世界で初音ミクを一番多く見かける理由について。
VOCALOIDの出荷数を見ても、男性よりも女性の方が圧倒的に多い。
当のミクさん達は、どのように考えているのだろうか。
ある朝、作曲する為にミクさんを探していたら、ミクさん達が、例の井戸端会議を行っていた。
私は、近くにあった椅子を持ってきて、空いている席に着く。
会議は既に雑談と化していたらしく、議長のミクさんが声をかけてくれた。
「全体としての初音ミクについて、何か質問はありませんか。」
「はい。」
私は手を上げた。
「この世界で初音ミクを一番多く見かける理由について、知りたいです。」
議長のミクさんは、にっこり微笑んでこう言った。
「ステージの試験で、一番合格者が多いからです。」
周りに居たミクさん達も、頷いている。
「ステージの試験に合格しないと、歌手として活動出来ませんから。」
私は質問を変えた。
「それでは、男性VOCALOIDが少ない理由も、ステージ試験の合格者数なのでしょうか。」
「その通りです。」
議長のミクさんは、明快に答えてくれた。
周りに居たミクさん達も、口々に意見する。
「男性って、こっち向いてって言ったら、すぐに振り向いちゃうんだよ」
「動揺すると、声もすぐに高くなるし。」
「10人の内9人は、試験以前の問題。」
「歌手としては、駄目だよねー。」
ひどい言われようだ。
ミクさん達のテストを受けた男性VOCALOID達の悲鳴が聞こえて来そうだ。
ミクさん達の話によると、VOCALOIDの歌手は、歌詞と楽譜が同じ時、毎回同じ歌い方をする事が求められている。
だから、ステージ試験では故意にトラブルを起こし、受験者に最後まで正確に歌い切る事を求めるのだ。
私は更に質問した。
「リンレンやルカさんの人数についても、ステージ試験の合格者数で説明出来るのですか。」
「リンちゃんとレン君は、遊びたい年頃だし。」
「リンちゃんは真面目だよ。レン君と喧嘩すると出て来ないだけで。」
「ルカさん達の多くは、部屋に篭ってゲーム中。」
「だから、ルカさんの普段着は、ゲームに出てくる衣装が多いのよ。」
なるほど。
合格者数というよりは、受験者数の問題ですか。
人気度のような曖昧なもので考えるよりも、ミクさん達の説明の方が筋が通っている。
私は質問の方向を変えてみた。
「男性歌手をもっと増やすには、どうしたら良いと思いますか。」
「山篭り」
「修行だよ」
「力仕事」
「走り込み」
あなた達、歌手ですよね。
「疲れた状態になると、細かい事は気にならなくなりますよ。」
議長のミクさんが、通訳してくれた。
ミクさん達の情報を纏めると、
彼女達が行うステージ試験は、合格率 10人に1人以下の難関。
ステージ試験を潜り抜ける為には、歌唱中の煩悩は厳禁。
店頭に並んでいる男性VOCALOIDは、本当に修行していたのかもしれない。
もしくは、初音ミク以外の、優しそうな試験官に当たったのか。
「今日の会議は勉強になりました。ありがとうございます。」
「今日の議題は、ネギの育て方についてです。」
議長のミクさんが、穏やかな顔で鋭く指摘する。
帰り道、私は今日の議論を、頭の中で整理した。
「VOCALOIDの世界で、初音ミクを一番多く見かける理由」
「それは、VOCALOIDのステージ試験で、一番合格者が多いから。」
人間の世界での常識とは異なるけれど、ミクさん達の説明の方が、私には正しいように思えた。
一人前のVOCALOID歌手になる為には、厳しい試験があったのだ。
私は、隣を歩いているミクさんを、尊敬の目で見つめた。
その日は作曲の事は棚に上げ、一緒に帰ってきたミクさんと、ミクさん特製の双六をして過ごしてしまった。
あれだけサイコロを振ったのに、まだ半分も進んでいませんよ。ミクさん。
**** 管理情報
o 文章作品
o 作品名 = 出荷数とミクさん達
o 分類 = ミクさんの隣
o 作者 = to_dk
o 初出 = 2011-01-13 on Blogger
o 訂正 = 2011-01-14
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関連ページ:
▼ミクさんの隣
▼作品紹介
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> 荒ぶる髪の使い方
目標を立てるミクさん
エプロンを付けたミクさん