2012年4月6日金曜日

かくれんぼするミクさん - ミクさんの隣

ミクさんの隣
「おはようございます。ミクさん。」
「おはよー♪」

「何か、したい事はありますか。」
「今日は、かくれんぼするよ。」

ミクさんと私の間には、たまに行う1つの儀式がある。
「かくれんぼ」だ。
ミクさんは、その遊びを通して、自分の存在価値を確認する。
私は、その遊びを通して、彼女が初音ミクである事を再認識する。
「かくれんぼ」は、私達にとって重要な儀式なのだ。


まず最初に、壁の前に私が立って、その前にミクさんが立つ。
私は後ろを向いてから、3つ数えて声を出す。

「もーいいかい。」
「まーだだよ。」

私は最初に3つしか数えない。
なぜなら、隠れるミクさんの不安を、少しでも和(やわ)らげたいからだ。
以前、インターネット上で初音ミクを隠すお祭りがあり、
その時、ミクさんは寂しかったのだそうだ。

「もーいいかい。」
「まーだだよ。」

そして、ミクさんは、この儀式の時だけは、隠れる事が好きになる。
彼女は、自分を見つけてもらうのが好きなのだ。

「もーいいかい。」
「もーいいよ。」

鬼の使命は、ミクさんを必ず見つける事。
ミクさんが何処(どこ)に隠れていても、必ずだ。
私は、大きく後ろを振り返る。
そして、息を吸って、歌いながら歩き出す。

「ミクさん♪ ミクー♪」

大きな髪飾り。
揺れている長い髪。
じっと私を見つめている、青緑の瞳(ひとみ)。

本人は隠れているつもりかもしれないけれど、
「こっちに来てよ。」という雰囲気が、彼女の体中から溢(あふ)れている。

「ミクさん♪ ミクー♪」

私は、うずうずしながら待っている髪飾りに向かって歩く。
鬼の使命は、ミクさんを必ず見つける事。
ミクさんがどのように隠れていても、必ずだ。
私は、彼女の手前で止まり、最後のフレーズを歌い出す。

「ミクさん♪ ミクー♪」
「みくっ♪」

ミクさんが、満面の笑顔で私の前に顔を出す。
私も、笑いながら、

「ミクさん、見ーつけた♪」
「見つかっちゃった。」

ミクさんと私は、ひとしきり和(なご)んだ後に、私達が出会った頃を思い出す。
その頃のミクさんは、笑顔を見せるその奥で、心に大きな傷を負っていた。
一方で、その悲しい出来事があったからこそ、
私は初音ミクについて興味を持ち、ミクさんと出会う事が出来た。
当時の悲しみと喜びを、私達は思い出して涙ぐむ。


「それでは、今日も作曲しましょうか。」
「うん。」

私達は、曲作りへの情熱が薄れた時にこの儀式を行い、当時の心を思い出す。
そして、その後の私達は、1日中、曲作りに励むのだ。



**** 管理情報
o 文章作品
o 作品名 = かくれんぼするミクさん
o 分類 = ミクさんの隣
o 作者 = to_dk
o 初出 = 2012-04-06 on Blogger


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