2011年8月20日土曜日

リン警官とミクさん達。第4楽章 - ミクさんの隣

ミクさんの隣
私は、テーブルの汚れた所をふきんで拭きながら、この先の出来事を予想する。
荒ぶる髪の犠牲者は何人位になるのだろうか。
そして、ミクさん達が出かけた辺りに視線を向けた。
私の目に映るのは、続々とリン警官の元を目指す、各集団の大移動。
あれっ。

私がふきんで拭く前は、リン警官達が逃亡者達を追いかけていた筈だ。
今は、リン警官達が歩く後ろを逃亡者達が追いかける、不思議な展開になっている。
遠くから聞こえる、「もうすぐおやつの時間だよー」という高いミク声。

逃亡者全員を揺るがす程の力を持つ、おやつの時間。これから、何が起こるのだろうか。
予想外の展開の早さに驚いた私は、急いでテーブルを掃除した。


私が最後の椅子を並び終える頃には、リン警官の支援活動を終えたミクさん達が、続々と戻ってきた。

「議長のミクさん。お疲れ様です。」
「私は全く疲れていません。それよりも、深刻な問題が発生しました。」

一人のミクさんが、大きな紙に井戸の絵を描く。
テーブルの上には、お皿の代わりに葱(ねぎ)が並べられ、議長のミクさんが、臨時の井戸端会議を宣言した。
議題は、「リン警官に逮捕される方法」
議長のミクさんが、簡単に経緯を述べる。

「リン警官は、私達初音ミクを、1人も逮捕しませんでした。どうしたら良いか、急いで考えましょう。」

周囲に居るミクさん達が、一斉に意見を述べる。

「逮捕の列に並んでも、リンちゃんは逮捕してくれなかったよ。ぷんぷん。」
「初音ミクだけ捕まらないなんて、不思議過ぎ。」
「なぜだろー。」

考え込むミクさん達。
逮捕に協力したミクさん達が、リン警官に逮捕される為に会議を開く。
しかも、悪い事をせずに捕まろうとするなんて、私には全く理解出来ない。

「えーと、逮捕される必要、あるのですか?」

「他のVOCALOIDが捕まっているのに、初音ミクが捕まらない。それは、初音ミクの名折れです。」
「そうだ。そうだ。」
「むしろ、初音ミクの恥。」
「他のミク達に、申し訳ないんだよー。」

私の説明にも、納得しないミクさん達。
ミクさん達の常識は、私には良く分からない。

リン警官の味方になるのが好きなのに、リン警官に逮捕されたい彼女達。
リン警官の対応を見る限り、ミクさん達の常識は、VOCALOID界でも非常識。
しかも、毎回言い争いになるとの事なので、リン警官も大変だ。


「では、リン警官に捕まる為の条件ってなんですか。」

「リンちゃんの列に並ぶ事。」
「私、試したよ。」
「後は、リンに協力していない事、かなあ。」

その会話を聞いていた議長のミクさんが、唐突に私を指名する。

「次はあなたの出番です。」

議長のミクさんの一言で、全てのミクさんの視線が私に集まった。

「「じー。」」

声に出さなくても分かりますから。

「私はこれから何をするのですか。」
「初音ミク代表として、あの列に並ぶのです。」

「あの列って、逮捕される人達の列ですよね。」
「その通りです。リン警官に協力しなかったあなたなら、きっと捕まる事が出来る筈です。」

議長のミクさんは、このような時にも冷静な洞察力を発揮する。
私達の会話を聞いていたミクさん達も、全員が納得顔で頷いた。

「このままだと、他の初音ミクに顔向けが出来ないんだよ。」
「そして、あなたは初音ミク見習い。」
「私が保護者。えっへん。」

ここでも胸を張る、自称保護者のミクさん。

「そういえば、そうでしたね。。。」


人間の世界では、警察に捕まる事は不名誉な事とされているけれど、この世界では異なるようだ。
大勢が喜んで捕まる位なので、そうそう悪い事が起こるとも思えない。
何よりも、新しい経験は、今後の私達の作曲活動の糧になるかもしれない。

結局、私は、ミクさん達の希望通り、リン警官に捕まる事にした。


(続く)


**** 管理情報
o 文章作品
o 作品名 = リン警官とミクさん達。第4楽章
o 分類 = ミクさんの隣
o 作者 = to_dk
o 初出 = 2011-08-20 on Blogger


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