リン警官とミクさん達。第4楽章 - ミクさんの隣
私は、テーブルの汚れた所をふきんで拭きながら、この先の出来事を予想する。荒ぶる髪の犠牲者は何人位になるのだろうか。
そして、ミクさん達が出かけた辺りに視線を向けた。
私の目に映るのは、続々とリン警官の元を目指す、各集団の大移動。
あれっ。
私がふきんで拭く前は、リン警官達が逃亡者達を追いかけていた筈だ。
今は、リン警官達が歩く後ろを逃亡者達が追いかける、不思議な展開になっている。
遠くから聞こえる、「もうすぐおやつの時間だよー」という高いミク声。
逃亡者全員を揺るがす程の力を持つ、おやつの時間。これから、何が起こるのだろうか。
予想外の展開の早さに驚いた私は、急いでテーブルを掃除した。
私が最後の椅子を並び終える頃には、リン警官の支援活動を終えたミクさん達が、続々と戻ってきた。
「議長のミクさん。お疲れ様です。」
「私は全く疲れていません。それよりも、深刻な問題が発生しました。」
一人のミクさんが、大きな紙に井戸の絵を描く。
テーブルの上には、お皿の代わりに葱(ねぎ)が並べられ、議長のミクさんが、臨時の井戸端会議を宣言した。
議題は、「リン警官に逮捕される方法」
議長のミクさんが、簡単に経緯を述べる。
「リン警官は、私達初音ミクを、1人も逮捕しませんでした。どうしたら良いか、急いで考えましょう。」
周囲に居るミクさん達が、一斉に意見を述べる。
「逮捕の列に並んでも、リンちゃんは逮捕してくれなかったよ。ぷんぷん。」
「初音ミクだけ捕まらないなんて、不思議過ぎ。」
「なぜだろー。」
考え込むミクさん達。
逮捕に協力したミクさん達が、リン警官に逮捕される為に会議を開く。
しかも、悪い事をせずに捕まろうとするなんて、私には全く理解出来ない。
「えーと、逮捕される必要、あるのですか?」
「他のVOCALOIDが捕まっているのに、初音ミクが捕まらない。それは、初音ミクの名折れです。」
「そうだ。そうだ。」
「むしろ、初音ミクの恥。」
「他のミク達に、申し訳ないんだよー。」
私の説明にも、納得しないミクさん達。
ミクさん達の常識は、私には良く分からない。
リン警官の味方になるのが好きなのに、リン警官に逮捕されたい彼女達。
リン警官の対応を見る限り、ミクさん達の常識は、VOCALOID界でも非常識。
しかも、毎回言い争いになるとの事なので、リン警官も大変だ。
「では、リン警官に捕まる為の条件ってなんですか。」
「リンちゃんの列に並ぶ事。」
「私、試したよ。」
「後は、リンに協力していない事、かなあ。」
その会話を聞いていた議長のミクさんが、唐突に私を指名する。
「次はあなたの出番です。」
議長のミクさんの一言で、全てのミクさんの視線が私に集まった。
「「じー。」」
声に出さなくても分かりますから。
「私はこれから何をするのですか。」
「初音ミク代表として、あの列に並ぶのです。」
「あの列って、逮捕される人達の列ですよね。」
「その通りです。リン警官に協力しなかったあなたなら、きっと捕まる事が出来る筈です。」
議長のミクさんは、このような時にも冷静な洞察力を発揮する。
私達の会話を聞いていたミクさん達も、全員が納得顔で頷いた。
「このままだと、他の初音ミクに顔向けが出来ないんだよ。」
「そして、あなたは初音ミク見習い。」
「私が保護者。えっへん。」
ここでも胸を張る、自称保護者のミクさん。
「そういえば、そうでしたね。。。」
人間の世界では、警察に捕まる事は不名誉な事とされているけれど、この世界では異なるようだ。
大勢が喜んで捕まる位なので、そうそう悪い事が起こるとも思えない。
何よりも、新しい経験は、今後の私達の作曲活動の糧になるかもしれない。
結局、私は、ミクさん達の希望通り、リン警官に捕まる事にした。
(続く)
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o 文章作品
o 作品名 = リン警官とミクさん達。第4楽章
o 分類 = ミクさんの隣
o 作者 = to_dk
o 初出 = 2011-08-20 on Blogger
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関連ページ:
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> リン警官とミクさん達。第5楽章
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