尊敬するミクさん - ミクさんの隣
初音ミクは、「ネギを持つ歌手」として世間に知られているけれど、ミクさんには、尊敬している野菜が一つある。
「おはようございます。ミクさん。」
「おはよー♪」
「なんだか、嬉しそうですね。」
「さっき、ネギの王様を見つけたよ。」
ミクさんが指し示した先には、箱があり、
箱の上には、薄茶色の丸い塊が鎮座していた。
「玉葱(= たまねぎ)ですね。」
「そうだよ。」
「ネギの王様ですか?」
「風格が漂っているんだよ。」
昨日買ってきた玉葱を、台所の隅に転がしておいたのだけれど、
その中の一つが、ミクさんの目に止まったようだ。
「人間の学者の中には、玉葱と葱(= ねぎ)は別の種類だと言っている人も居ますよ。」
「でも、タマネギを育てると、ネギになるよ。」
太いネギのような姿をした玉葱は、
葉玉葱(= はたまねぎ)として、八百屋で売られている事がある。
「そう言われてみると、そうですね。」
「だから、ネギの王様なんだよ。」
ミクさんがどこで覚えてきたのかは知らないけれど、
この家では、「タマネギ = ネギの王様」と呼ばれる事になった。
「ところで、私はこれから料理をしますので、ネギの王様を返してくれませんか、ミクさん。」
「今は駄目。」
ミクさんは、冷蔵庫から取り出したネギを右手に持ち、ネギの王様の前で正座した。
そして、真剣な目を私に向けて、
「きちんと挨拶してからなんだよ。」
仕方が無いので、私はミクさんの挨拶が終わるまで、玉葱料理を中断する。
「私は初音ミクです。ネギの王様。」
箱の上に鎮座している玉葱に向かって、深く頭を下げるミクさん。
私も釣られてお辞儀する。
「ネギと言えば、初音ミク。そして、タマネギと言えはあなたです。」
片手でネギを振り、ネギ娘である事をアピールするミクさん。
ミクさんからネギを渡された私も、彼女に合わせてネギを振る。
「これからも、この世にネギを広める為に、私達は一層努力する次第です。」
ミクさんがネギの伝道師だったなんて、初耳だ。
そして、「私達」って、私は関係無いですよね。ミクさん。
冷蔵庫に眠っていたネギは、ミクさんのネギ振り速度に耐えられず、折れてしまった。
「ですから、今日の所は安心してお休みください。ネギの王様。」
ミクさんは、ネギの王様に向かって礼をする。
私も習って、礼をする。
ミクさんは一連の挨拶(= あいさつ)を終えると、
ネギの王様を両手で運び、隣にいる私に手渡した。
「お料理頑張ってね。」
なんですと。
ネギの王様を、挨拶の後、直ちに料理に使うとは。
ミクさんの思考回路には付いていけない私だけれど、
私は、ネギの王様に丁寧に包丁を入れ、味噌汁(= みそしる)を作った。
折れたネギも少し切って入れたから、ミクさんはとてもご満悦だ。
「そういえば、ネギの王様の話は、どこで耳にしたのですか。ミクさん。」
「リンちゃんだよ。」
リンちゃんと言えば、あの、お菓子作りが得意なリン警官ですか。
「リン警官は、何と言っていましたか。」
「タマネギは、野菜の王様候補だって。ネギ代表だから、今期の最有力候補だよ。」
目をキラキラと輝かせながら、タマネギの将来を語り出すミクさん。
あまりにもミクさんが嬉しそうだったので、私は彼女の話を否定せずに、最後まで聞いてしまった。
でも、野菜の王様は、任期制では無いと思いますよ。ミクさん。
後日、リン警官にこの話をした所、
「ミク姉、、、」
リン警官がしばらく絶句していた事は、ここだけの秘密だ。
**** 管理情報
o 文章作品
o 作品名 = 尊敬するミクさん
o 分類 = ミクさんの隣
o 作者 = to_dk
o 初出 = 2012-10-08 on Blogger
==
関連ページ:
▼ミクさんの隣
▼作品紹介
▼目次
> 武術家のミクさん
かくれんぼするミクさん
ミクさんが新作料理を作る時。第1楽章
(2012年10月8日訂正。「非常に」から「とても」)