2011年9月23日金曜日

ミクさんが新作料理を作る時。第3楽章 - ミクさんの隣

ミクさんの隣
ミクさんの新作料理を阻止する為に此処(ここ)に来た、KAITOさんと私。
私達の目的は、ミクさんが不思議な食材を集め終える前にミクさんに出会い、彼女を連れて帰る事だ。
2日目の朝、KAITOさんは元気になって、開口一番にこう言った。

「今日は、この近くにある洞窟の中を調べよう。」

「他の場所は探さないのですか。」
「ミクはきっと、山の表面を調べ終わっている筈だ。それに。」

「それに?」
「ミクが今、洞窟の近くに下りていった。」

「ミクさーん。」

私と彼はリュックを背負い、走ってミクさんを追いかけた。


「はぁーっ、はぁーっ。」
「ぜーっ、ぜーっ。」

洞窟の入口に到着した私達。
しかし、ミクさんはどこにも居なかった。
少し休憩して息を整えた私は、KAITOさんに質問した。

「先に進みますか。それとも、ここで待ちますか。」
「先に進もう。ミクは他の出口を使うから。」

私達は洞窟の側を流れる川から水を汲み、ミクさんを追う準備を整えた。
そして、私達が洞窟に入ろうとすると、洞窟の片側の壁が、がらがらと崩れ落ちてきた。

「この先で、大きな蛇がミクから逃げているみたいだね。」

KAITOさんは冷静だ。
そして、ミクさんの非常識さは洞窟内でも健在のようだ。
洞窟内を進みながら、私は後ろを歩いている彼に話し掛けた。

「ミクさんの行動に詳しいですね。KAITOさん。」
「ミクがここに来る時は、僕もここに来ているからね。」

「毎回ですか?」
「ミクが危険な目に遭ったら、大変だからね。」

ミクさんが休みそうな場所を見つけて、掃除をしたり、
道端に葱を置いて、ミクさんを安全な所に誘導したり。
ミクさんのお兄さんって、意外と大変なのですね。


洞窟内を暫(しばら)く歩いていると、蝙蝠(こうもり)の集団が私達に襲い掛かってきた。

「何ですか、このコウモリは。」
「僕達は♪ 餌じゃなーい♪」

この状況下で、歌手である事を思い出して歌い出す KAITO さん。
しかし、彼が歌っている間も、私達は蝙蝠達に襲われ続けた。

「ミクのようには、いかないなあ。」

「ミクさんも歌うのですか。」
「うん。ミクが歌うと道を空けるんだよ。彼らは。」

「不思議ですね。」

ミクさんは、超音波を出す事も出来るのだろうか。
彼女の場合、「えふぇくとー」などと言いながら、一見無理な事でも実現してしまうから、恐ろしい。


更に歩くと、1匹の蛇が行く手を塞(ふさ)いでいた。

「しゃーっ。」

「やる気満々ですね。あの蛇は。」
「僕達はー♪ 敵じゃなーい♪」

また歌い出す、青マフラー。

「ミクさんも歌うのですか。」
「ミクは髪で威嚇(いかく)。」

私達は、ミクさんの真似が出来ない。
仕方が無いので、ミクさんが通らないような横道に入って、くねくね進む。


「また、道が分かれていますよ。」
「ミ、ク、は、ど、ち、ら、に、行、っ、た、か、な!」

「右ですよね。」

絶望的な手段で、ミクさんを追い求める私達。

「ヤモリですね。」
「反対方向に逃げるんだ。」

「また蛇ですね。」
「別の道を進もう。」

私達は、肌寒い洞窟を、汗をかきながら歩き回った。
そして、3回目の行き止まりから戻る途中で、私達は、通路の真ん中に据え置かれている四角の物体を発見した。

「宝箱だ。」
「こんな所にあるなんて、不自然ですね。」

「ふたを開けてみよう。」
「開けるのでしたら、慎重にお願いします。」

彼は、私の忠告を無視して、ぱかっと蓋(ふた)を開けた。
すると、箱の中から、小さなツインテールが姿を現した。

「みくー。」

「ミクだ。」
「小さなミクさんですね。」

「ミクー。僕が悪かったよー。」
「落ち着いてください。彼女は別人ですよ。」

会話をしている私達をじーっと見つめる、小さな瞳。

「おなか減ったよー。」

そこで、私は、リュックに入っている非常食の1つを、彼女の目の前に置いてみた。
彼女は宝箱に入ったまま、両手を上手に使って、むしゃむしゃと非常食を平らげる。

「可愛いなあ。」
「可愛いですね。」

KAITOさんは、小さなミクさんの求めるままに、非常食を次々と差し出した。
おなか一杯になるまで食べた彼女は、ごちそうさまの仕草をした後、しゃがんで宝箱の蓋を閉めた。

「小さなミクも、良いものだなあー。」
「ああっ、私の非常食も全部渡したのですか。」

「あのミクの目を見たら、拒否出来る訳無いだろー。」
「仕方ありませんね。」

私達は、いきなり食糧危機に陥(おちい)った。
小さなミクさん、恐るべし。


「とりあえず、食料を確保しよう。」

私達は、戻る道が分からなかったので、水の音を頼りにして前に進んだ。
そして、茸(きのこ)を発見。

「食用ですか?」
「僕達には、食べるしか選択肢が無い。そうだろう。」

私達は茸(きのこ)を炙(あぶ)って食べて、その副作用で笑い転げた。

そして、笑い転げている私達の目の前を、ミクさんが2度横切った。
けれども、彼女は私達の笑顔を見て、2回とも安心して通り過ぎていった。

ミクさーん。


私達は、笑いの発作が治まった後、洞窟内を流れる川を辿り、洞窟の外に出る事が出来た。
その日の晩は、葱(ねぎ)尽くし。
周りに生えている大きな葱を焼いて食べながら、私は今日の行動を振り返った。

とりあえず、ミクさんに出会うという、私達の第一の目標は達成した。
そして、ミクさんが私達よりも遥かに冒険に向いているという事も、理解した。
それにしても、宝箱に入った小さなミクさんは不思議な存在だ。
もしも彼女がゲーム世界の住人だったなら、史上最強のモンスターになれるに違いない。

続く


**** 管理情報
o 文章作品
o 作品名 = ミクさんが新作料理を作る時。第3楽章
o 分類 = ミクさんの隣
o 作者 = to_dk
o 初出 = 2011-09-23 on Blogger


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関連ページ:
    ▼ミクさんの隣
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    指導するミクさん
    ヨーグルトの目をしたミクさん
(2011年9月28日変更。冒頭部分の会話の繋ぎ)