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2012年10月8日月曜日

尊敬するミクさん - ミクさんの隣

ミクさんの隣
初音ミクは、「ネギを持つ歌手」として世間に知られているけれど、
ミクさんには、尊敬している野菜が一つある。

「おはようございます。ミクさん。」
「おはよー♪」

「なんだか、嬉しそうですね。」
「さっき、ネギの王様を見つけたよ。」

ミクさんが指し示した先には、箱があり、
箱の上には、薄茶色の丸い塊が鎮座していた。

「玉葱(= たまねぎ)ですね。」
「そうだよ。」

「ネギの王様ですか?」
「風格が漂っているんだよ。」

昨日買ってきた玉葱を、台所の隅に転がしておいたのだけれど、
その中の一つが、ミクさんの目に止まったようだ。

「人間の学者の中には、玉葱と葱(= ねぎ)は別の種類だと言っている人も居ますよ。」
「でも、タマネギを育てると、ネギになるよ。」

太いネギのような姿をした玉葱は、
葉玉葱(= はたまねぎ)として、八百屋で売られている事がある。

「そう言われてみると、そうですね。」
「だから、ネギの王様なんだよ。」

ミクさんがどこで覚えてきたのかは知らないけれど、
この家では、「タマネギ = ネギの王様」と呼ばれる事になった。


「ところで、私はこれから料理をしますので、ネギの王様を返してくれませんか、ミクさん。」
「今は駄目。」

ミクさんは、冷蔵庫から取り出したネギを右手に持ち、ネギの王様の前で正座した。
そして、真剣な目を私に向けて、

「きちんと挨拶してからなんだよ。」

仕方が無いので、私はミクさんの挨拶が終わるまで、玉葱料理を中断する。


「私は初音ミクです。ネギの王様。」

箱の上に鎮座している玉葱に向かって、深く頭を下げるミクさん。
私も釣られてお辞儀する。

「ネギと言えば、初音ミク。そして、タマネギと言えはあなたです。」

片手でネギを振り、ネギ娘である事をアピールするミクさん。
ミクさんからネギを渡された私も、彼女に合わせてネギを振る。

「これからも、この世にネギを広める為に、私達は一層努力する次第です。」

ミクさんがネギの伝道師だったなんて、初耳だ。
そして、「私達」って、私は関係無いですよね。ミクさん。
冷蔵庫に眠っていたネギは、ミクさんのネギ振り速度に耐えられず、折れてしまった。

「ですから、今日の所は安心してお休みください。ネギの王様。」

ミクさんは、ネギの王様に向かって礼をする。
私も習って、礼をする。
ミクさんは一連の挨拶(= あいさつ)を終えると、
ネギの王様を両手で運び、隣にいる私に手渡した。

「お料理頑張ってね。」

なんですと。
ネギの王様を、挨拶の後、直ちに料理に使うとは。

ミクさんの思考回路には付いていけない私だけれど、
私は、ネギの王様に丁寧に包丁を入れ、味噌汁(= みそしる)を作った。
折れたネギも少し切って入れたから、ミクさんはとてもご満悦だ。


「そういえば、ネギの王様の話は、どこで耳にしたのですか。ミクさん。」
「リンちゃんだよ。」

リンちゃんと言えば、あの、お菓子作りが得意なリン警官ですか。

「リン警官は、何と言っていましたか。」
「タマネギは、野菜の王様候補だって。ネギ代表だから、今期の最有力候補だよ。」

目をキラキラと輝かせながら、タマネギの将来を語り出すミクさん。
あまりにもミクさんが嬉しそうだったので、私は彼女の話を否定せずに、最後まで聞いてしまった。
でも、野菜の王様は、任期制では無いと思いますよ。ミクさん。


後日、リン警官にこの話をした所、

「ミク姉、、、」

リン警官がしばらく絶句していた事は、ここだけの秘密だ。



**** 管理情報
o 文章作品
o 作品名 = 尊敬するミクさん
o 分類 = ミクさんの隣
o 作者 = to_dk
o 初出 = 2012-10-08 on Blogger


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    > 武術家のミクさん
    かくれんぼするミクさん
    ミクさんが新作料理を作る時。第1楽章
(2012年10月8日訂正。「非常に」から「とても」)

2012年7月17日火曜日

武術家のミクさん - ミクさんの隣

ミクさんの隣
初音ミクと言えば、歌う事が大好きという印象があるけれど、
ミクさんは、どこからか武道や武術の本を拾ってきて、その真似事をする事がある。

「空手の本を見つけたよ。」

本のタイトルは、「VOCALOIDの為の空手入門」。
本の表紙には、青いマフラーを巻いた青年が、足を高く伸ばしている姿。

「その本は、どこに落ちていましたか。ミクさん。」
「玄関の前だよ。少し練習してくるね。」

このミクさんに限らず、武道や武術を嗜(たしな)むミクさん達は、意外と多い。
彼女達は、ステージで歌う時の振り付けの参考にする為に、体の動かし方について勉強しているのだ。

「いってらっしゃい。」
「いってきまーす♪」

ミクさんを見送った私は、窓を開けて外を眺めた。
すると、家の外に出たミクさんは、いつものように、
家の前を歩いている男の人を捕まえて、話しかけていた。

「お兄ちゃん。空手の練習に付き合って。」
「喜んで付き合うよ。ミク。」

ミクさんが捕まえたのは、彼女の兄のKAITOさん。
寒くもないのに青いマフラーを巻いている彼は、妹の将来をいつも心配している苦労人だ。
そして2人は、道の片隅に移動して、
どこからか持ってきたマットレスを辺りに敷き詰めて、今日も武術の練習が始まった。


「最初は軽く、肩慣らしだ。ミク。」
「えいやー。」

「もう一回。」
「おー。」

真面目に拳(こぶし)を前に出すミクさんと、彼女の拳を片手で受け流すKAITO先生。
一見、遊んでいるように見えるけれど、ミクさんの尋常(じんじょう)ではない真面目さは、彼の指導心に火を付ける。

「ミク、拳(こぶし)を当てた時には、一番効果が高い方向に力を通すんだ。」
「ネギぱーんち。」

「ミク。ネギの方が痛いよ。」
「ネギネギぱーんち。」

また今日も、ミクさんを熱心に指導しているKAITOさん。
KAITO先生の熱血指導は、更に熱さを増していき、ミクさんにしか理解出来ない言葉で話し出す。

「アイス成分が足りないな。ミク。」
「れいとー。」

「ミク、この動きに優雅さを、バニラ・エッセンス3滴分増やすんだ。」
「あまあまー。」

KAITO先生の難解な専門用語を瞬時に理解し、動きを変えるミクさん。
彼のアイスな発言に対して、間髪入れずに反応する事が出来るなんて、流石は彼の妹だ。
私がミクさんの理解力に感心していると、ミクさんの掛け声が変化して、練習は次の局面を迎えた。

「私、もっと頑張るよ。」

目の色が変わったミクさんと、全力で身構える構えに変化したKAITO先生。
KAITO先生は知っている。
初音ミクの実力は、人間離れしている所にある事を。
そして、ミクさんの目が輝き出した今、彼女の真の力が発揮されるという事を。

「えいやー。」

ごうっ。

ミクさんが一突きした直後、僅(わず)かに遅れて音がする。
荒ぶる髪の発動だ。
ミクさんの攻撃を止めた相手を、彼女の髪が豪快に吹き飛ばす。
ミクさんが無意識の内に繰り出してしまう、彼女の最も恐ろしい髪技だ。

ビューン。ドサッ。

ミクさんの髪は彼女自身を守るように包み込み、
青いマフラーを巻いた物体は、大きなボールのように空を舞った。
そして、敷き詰めたマットレスの上に豪快に叩きつけられたKAITO先生は、
ゆっくりと立ち上がり、不敵な薄笑いを浮かべてこう言った。

「ミク。まだまだだな。」

いえ、体がよろけていますよ、KAITO先生。
この状況下で、目が輝いているミクさんを挑発する必要があるなんて、
初音ミクを鍛え上げる「ミク道」とは、かくも険しい道なのか。

「もっともっと、頑張るよ。えいやー。」

普段は軟弱に見えるのに、妹の前では異常な精神力を示すお兄さん。
そして、とても素直な妹は、兄の言葉を信じ、兄の示した道を突き進む。

パシッ。ごうっ。飛んでドサッ。「ミク。もっと鋭く!」
パシッ。ごうっ。飛んでドサッ。「ミク。僕を倒せないようなら、まだまだだ。」

どのように観察しても、ミクさんの髪のサンドバックになっているKAITO先生。
それでも彼は止めないし、ミクさんは止まらなかった。

パシッ。ごうっ。飛んでドサッ。「ミク。腕の動きは正確に。」
パシッ。ごうっ。飛んでドサッ。「棒アイスのはずれの方が痛いよ。ミク。」

太陽が西へと移動して、辺りは赤く染まり出す。
永久機関を彷彿(ほうふつ)とさせる彼女達の特訓は、
KAITO先生がある一言を告げる事で、ようやく幕を閉じた。

「今日はこれ位にしようか。ミク。」
「うん。ありがとう。お兄ちゃん。」


私がミクさん達を出迎えた時、ミクさんの指導教官である彼は、
どこから見てもボロボロな姿にも関わらず、爽やかな笑顔でこう言った。

「僕が居なくても自分の身を守れるように、ミクをもっと鍛えないといけないな。」

ミクさんの通り道に武道や武術の本を落とし、
彼女が出てきた所を、毎回偶然通りかかり、
自らの身を犠牲にしてまで、彼女を鍛えるKAITOさん。
初音ミクの兄が目指している道は、修羅の道。
それでも進もうとするKAITOさんは、まさに、「ミク道」を極めようとする修行者だ。


「じゃあ、僕は帰るよ。」
「お兄ちゃん。今日もありがとう。」

私達と一緒に夕食を食べた後、帰路についたKAITOさん。
彼は、ミクさんの感謝の視線を背に受けて、一歩一歩、着実に歩んで遠ざかる。

「今日もご指導ありがとうございます。ミクさんのお兄さん。」

彼の後ろ姿から伝わってきたのは、兄として大きな事をやり遂げた後の満足感。
この世に青マフラーは沢山存在するけれど、ミクさんは、このKAITOさんだけを兄と呼ぶ。
私はミクさんの隣に立ちながら、今、その理由が理解出来たような気がした。


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o 文章作品
o 作品名 = 武術家のミクさん
o 分類 = ミクさんの隣
o 作者 = to_dk
o 初出 = 2012-07-17 on Blogger


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    ミクさんが新作料理を作る時。第1楽章
    指導するミクさん

2012年4月6日金曜日

かくれんぼするミクさん - ミクさんの隣

ミクさんの隣
「おはようございます。ミクさん。」
「おはよー♪」

「何か、したい事はありますか。」
「今日は、かくれんぼするよ。」

ミクさんと私の間には、たまに行う1つの儀式がある。
「かくれんぼ」だ。
ミクさんは、その遊びを通して、自分の存在価値を確認する。
私は、その遊びを通して、彼女が初音ミクである事を再認識する。
「かくれんぼ」は、私達にとって重要な儀式なのだ。


まず最初に、壁の前に私が立って、その前にミクさんが立つ。
私は後ろを向いてから、3つ数えて声を出す。

「もーいいかい。」
「まーだだよ。」

私は最初に3つしか数えない。
なぜなら、隠れるミクさんの不安を、少しでも和(やわ)らげたいからだ。
以前、インターネット上で初音ミクを隠すお祭りがあり、
その時、ミクさんは寂しかったのだそうだ。

「もーいいかい。」
「まーだだよ。」

そして、ミクさんは、この儀式の時だけは、隠れる事が好きになる。
彼女は、自分を見つけてもらうのが好きなのだ。

「もーいいかい。」
「もーいいよ。」

鬼の使命は、ミクさんを必ず見つける事。
ミクさんが何処(どこ)に隠れていても、必ずだ。
私は、大きく後ろを振り返る。
そして、息を吸って、歌いながら歩き出す。

「ミクさん♪ ミクー♪」

大きな髪飾り。
揺れている長い髪。
じっと私を見つめている、青緑の瞳(ひとみ)。

本人は隠れているつもりかもしれないけれど、
「こっちに来てよ。」という雰囲気が、彼女の体中から溢(あふ)れている。

「ミクさん♪ ミクー♪」

私は、うずうずしながら待っている髪飾りに向かって歩く。
鬼の使命は、ミクさんを必ず見つける事。
ミクさんがどのように隠れていても、必ずだ。
私は、彼女の手前で止まり、最後のフレーズを歌い出す。

「ミクさん♪ ミクー♪」
「みくっ♪」

ミクさんが、満面の笑顔で私の前に顔を出す。
私も、笑いながら、

「ミクさん、見ーつけた♪」
「見つかっちゃった。」

ミクさんと私は、ひとしきり和(なご)んだ後に、私達が出会った頃を思い出す。
その頃のミクさんは、笑顔を見せるその奥で、心に大きな傷を負っていた。
一方で、その悲しい出来事があったからこそ、
私は初音ミクについて興味を持ち、ミクさんと出会う事が出来た。
当時の悲しみと喜びを、私達は思い出して涙ぐむ。


「それでは、今日も作曲しましょうか。」
「うん。」

私達は、曲作りへの情熱が薄れた時にこの儀式を行い、当時の心を思い出す。
そして、その後の私達は、1日中、曲作りに励むのだ。



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o 文章作品
o 作品名 = かくれんぼするミクさん
o 分類 = ミクさんの隣
o 作者 = to_dk
o 初出 = 2012-04-06 on Blogger


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2011年9月24日土曜日

ミクさんが新作料理を作る時。第4楽章 - ミクさんの隣

ミクさんの隣
ミクさん探し3日目の朝、寝袋に入って寝ていた私は、KAITOさんの大きな声で目が覚めた。

「ミクー。ミクー。」

私の目に映ったのは、青白い空に青緑の長い髪。
ミクさんは、多くの荷物を抱えて、空を大きく横切っている所だった。

「ミクー。」
「ミクさーん。」

声を張り上げる私達。

「ミクー。帰ってきてくれー。」
「いえ、帰っている所ですよ。あれは。」

「ミクが帰る前に、あの巨大きのこを何とかしないと。」
「その隣にある、大きな瓶も気になりますね。」

私達が話している間に、ミクさんと食材達は見えなくなってしまった。

「ああっ、ミクがー。」
「新作料理確定ですね。」

「大きなきのこ。」
「怪しげな瓶。」

「野生ネギ。」
「正方形のさつま芋、でしょうか。」

「ミクの頭の上にあった、大きな袋の中身は何だろう。」
「分かりません。でも、大収穫だったみたいですね。」

私達は大きく溜息をついてから、これからの事を考える。

ミクさんは、あの食材達を運び終えたら、嬉々として新作料理を作り出すに違いない。
新作料理と聞いて喜んではいけない。
料理が得意では無いミクさんが、誰も見た事の無いような料理を作るのだ。
そして、此処(ここ)にいる彼と私が、得体の知れないミクさんの新作料理を「美味(おい)しく」頂く事になるのだ。

「もはや、手遅れか。」
「帰りましょうか。」

「いやだ。僕は、ここに住む。」
「ここには、葱(ねぎ)しかありませんよ。」

「葱とミクの新作料理なら、葱を選ぶよ。僕は。」

何気に酷(ひど)い事を言うKAITOさん。
もっとも、彼は此処(ここ)に留まる事は出来ない。
なぜなら、此処にはアイスクリームは無いからだ。
その事を指摘すると、彼は途端に帰る気になった。

「早く帰ろう。今すぐに。」

帰宅早々、ミクさんの新作料理を食べる事になってしまったら、私達の身と心が持たない。
到着直後は普通の料理を食べたいと願いながら、彼と私は、長い帰宅の途についた。


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o 文章作品
o 作品名 = ミクさんが新作料理を作る時。第4楽章
o 分類 = ミクさんの隣
o 作者 = to_dk
o 初出 = 2011-09-24 on Blogger


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2011年9月23日金曜日

ミクさんが新作料理を作る時。第3楽章 - ミクさんの隣

ミクさんの隣
ミクさんの新作料理を阻止する為に此処(ここ)に来た、KAITOさんと私。
私達の目的は、ミクさんが不思議な食材を集め終える前にミクさんに出会い、彼女を連れて帰る事だ。
2日目の朝、KAITOさんは元気になって、開口一番にこう言った。

「今日は、この近くにある洞窟の中を調べよう。」

「他の場所は探さないのですか。」
「ミクはきっと、山の表面を調べ終わっている筈だ。それに。」

「それに?」
「ミクが今、洞窟の近くに下りていった。」

「ミクさーん。」

私と彼はリュックを背負い、走ってミクさんを追いかけた。


「はぁーっ、はぁーっ。」
「ぜーっ、ぜーっ。」

洞窟の入口に到着した私達。
しかし、ミクさんはどこにも居なかった。
少し休憩して息を整えた私は、KAITOさんに質問した。

「先に進みますか。それとも、ここで待ちますか。」
「先に進もう。ミクは他の出口を使うから。」

私達は洞窟の側を流れる川から水を汲み、ミクさんを追う準備を整えた。
そして、私達が洞窟に入ろうとすると、洞窟の片側の壁が、がらがらと崩れ落ちてきた。

「この先で、大きな蛇がミクから逃げているみたいだね。」

KAITOさんは冷静だ。
そして、ミクさんの非常識さは洞窟内でも健在のようだ。
洞窟内を進みながら、私は後ろを歩いている彼に話し掛けた。

「ミクさんの行動に詳しいですね。KAITOさん。」
「ミクがここに来る時は、僕もここに来ているからね。」

「毎回ですか?」
「ミクが危険な目に遭ったら、大変だからね。」

ミクさんが休みそうな場所を見つけて、掃除をしたり、
道端に葱を置いて、ミクさんを安全な所に誘導したり。
ミクさんのお兄さんって、意外と大変なのですね。


洞窟内を暫(しばら)く歩いていると、蝙蝠(こうもり)の集団が私達に襲い掛かってきた。

「何ですか、このコウモリは。」
「僕達は♪ 餌じゃなーい♪」

この状況下で、歌手である事を思い出して歌い出す KAITO さん。
しかし、彼が歌っている間も、私達は蝙蝠達に襲われ続けた。

「ミクのようには、いかないなあ。」

「ミクさんも歌うのですか。」
「うん。ミクが歌うと道を空けるんだよ。彼らは。」

「不思議ですね。」

ミクさんは、超音波を出す事も出来るのだろうか。
彼女の場合、「えふぇくとー」などと言いながら、一見無理な事でも実現してしまうから、恐ろしい。


更に歩くと、1匹の蛇が行く手を塞(ふさ)いでいた。

「しゃーっ。」

「やる気満々ですね。あの蛇は。」
「僕達はー♪ 敵じゃなーい♪」

また歌い出す、青マフラー。

「ミクさんも歌うのですか。」
「ミクは髪で威嚇(いかく)。」

私達は、ミクさんの真似が出来ない。
仕方が無いので、ミクさんが通らないような横道に入って、くねくね進む。


「また、道が分かれていますよ。」
「ミ、ク、は、ど、ち、ら、に、行、っ、た、か、な!」

「右ですよね。」

絶望的な手段で、ミクさんを追い求める私達。

「ヤモリですね。」
「反対方向に逃げるんだ。」

「また蛇ですね。」
「別の道を進もう。」

私達は、肌寒い洞窟を、汗をかきながら歩き回った。
そして、3回目の行き止まりから戻る途中で、私達は、通路の真ん中に据え置かれている四角の物体を発見した。

「宝箱だ。」
「こんな所にあるなんて、不自然ですね。」

「ふたを開けてみよう。」
「開けるのでしたら、慎重にお願いします。」

彼は、私の忠告を無視して、ぱかっと蓋(ふた)を開けた。
すると、箱の中から、小さなツインテールが姿を現した。

「みくー。」

「ミクだ。」
「小さなミクさんですね。」

「ミクー。僕が悪かったよー。」
「落ち着いてください。彼女は別人ですよ。」

会話をしている私達をじーっと見つめる、小さな瞳。

「おなか減ったよー。」

そこで、私は、リュックに入っている非常食の1つを、彼女の目の前に置いてみた。
彼女は宝箱に入ったまま、両手を上手に使って、むしゃむしゃと非常食を平らげる。

「可愛いなあ。」
「可愛いですね。」

KAITOさんは、小さなミクさんの求めるままに、非常食を次々と差し出した。
おなか一杯になるまで食べた彼女は、ごちそうさまの仕草をした後、しゃがんで宝箱の蓋を閉めた。

「小さなミクも、良いものだなあー。」
「ああっ、私の非常食も全部渡したのですか。」

「あのミクの目を見たら、拒否出来る訳無いだろー。」
「仕方ありませんね。」

私達は、いきなり食糧危機に陥(おちい)った。
小さなミクさん、恐るべし。


「とりあえず、食料を確保しよう。」

私達は、戻る道が分からなかったので、水の音を頼りにして前に進んだ。
そして、茸(きのこ)を発見。

「食用ですか?」
「僕達には、食べるしか選択肢が無い。そうだろう。」

私達は茸(きのこ)を炙(あぶ)って食べて、その副作用で笑い転げた。

そして、笑い転げている私達の目の前を、ミクさんが2度横切った。
けれども、彼女は私達の笑顔を見て、2回とも安心して通り過ぎていった。

ミクさーん。


私達は、笑いの発作が治まった後、洞窟内を流れる川を辿り、洞窟の外に出る事が出来た。
その日の晩は、葱(ねぎ)尽くし。
周りに生えている大きな葱を焼いて食べながら、私は今日の行動を振り返った。

とりあえず、ミクさんに出会うという、私達の第一の目標は達成した。
そして、ミクさんが私達よりも遥かに冒険に向いているという事も、理解した。
それにしても、宝箱に入った小さなミクさんは不思議な存在だ。
もしも彼女がゲーム世界の住人だったなら、史上最強のモンスターになれるに違いない。

続く


**** 管理情報
o 文章作品
o 作品名 = ミクさんが新作料理を作る時。第3楽章
o 分類 = ミクさんの隣
o 作者 = to_dk
o 初出 = 2011-09-23 on Blogger


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(2011年9月28日変更。冒頭部分の会話の繋ぎ)